生演奏の「サプライズ」と、バレエの裏側
私の所属する劇場では、
すべての公演がオーケストラの生演奏で行われます。
録音にはない奥行きや臨場感は何物にも代えがたい贅沢ですが、
生演奏ならではの難しさに直面することも少なくありません。
リハーサルで入念に打ち合わせをしていても、
本番では予想外の「サプライズ」が起こる。
それが舞台の日常でもあります。
テンポがもたらす肉体的な変化
最も大きな変化は、演奏のテンポです。
指揮者の解釈やその場の空気感によって、
音の速さは刻々と変わります。
• テンポが遅い場合
一見ゆったりとして見えますが、
ダンサーにとっては非常に過酷です。
音に合わせてバランスを長く保ち、
ジャンプの滞空時間を引き延ばさなければなりません。
一瞬の静止に使う筋力は想像以上に体力を消耗します。
• テンポが速い場合
これはもう、単純に足が追いつきません(笑)。
アレグロなどの細かいステップが続く場面でテンポが上がると、
音楽に置いていかれないよう必死で食らいつくことになります。
指揮者とダンサーの「ちょうどいい」場所
もちろん、指揮者もわざとテンポを変えているわけではありません。
そこには音楽家としての、さまざまな事情があるようです。
例えば、オーケストラに新しいメンバーが入っていたり、
技術的に非常に困難なパートでは、
どうしても物理的な限界で速度を上げられないことがあります。
また、「バレエとして踊りやすいテンポ」と
「音楽的に最も美しく正しいテンポ」が
必ずしも一致しないという、芸術的なジレンマも存在します。
舞台は「生き物」であるということ
事前のリハーサルでどれだけ細かく調整を重ねても、
本番という一回きりの空間では、何が起こるか分かりません。
それでも、その時々の音に呼吸を合わせ、
指揮者と見えない対話をしながら踊り切る。
その危うさも含めて、生演奏の舞台は「生き物」なのだと感じます。
明日の本番は、一体どのような音楽が響くのでしょうか。
そんな緊張感もまた、私たちが舞台に立ち続ける
理由の一つなのかもしれません。